『SAPPUKEI』ナンバーガール

SAPPUKEI

SAPPUKEI

『SAPPUKEI』(2000年7月19日)ナンバーガール

ナンバーガールのアルバムでベストを1枚挙げろといわれるとかなり迷う。4枚目の『NUM-HEAVYMETALLIC』はまず除外するとして、1枚目から3枚目まではどれにしようか難しいところだ。

しかしその活動が一番充実していた時期といえばこの作品になるだろう。

ナンバーガール作品の中で最も鋭利的なサウンドで、ヘッドホンで聴いていると本当に耳に突き刺さってくるような轟音が鳴り響く。
この作品を発売当時に聴き狂っていたら、アパートの住人から「音がうるさすぎます」というメモがポストに投げ込まれた。共同住宅における生活の難しさを教えてくれたのもこの作品のおかげというわけ..。

この作品のプロデュースはデイヴ・フリッドマンが手掛けた。その前のシングル「DESTRUCTION BABY」から起用されたわけだが、まさにベストな組み合わせだったと思う。当時はデイヴ・フリッドマンなどという人のことは名前すら全く知らなかった。

当時向井秀徳は影響を受けたアーティストとして、ザ・ポップ・グループやギャング・オブ・フォーの名前を挙げていたと記憶する。パブリック・イメージ・リミテッドのサウンドにも近い雰囲気がある。

これほどオルタナティブサウンドでありながら、当時のロック・サブカル界隈では抜群の支持を受け、それなりのセールスをあげたのだ。あの時代のナンバーガールの影響力はすごいものだった。

しかしこの作品以降は、シングルの「鉄風 鋭くなって」は微妙だったし、4枚め『NUM-HEAVYMETALLIC』はサウンド的に全然受けつけなかった。

ナンバーガール解散後に向井が結成したザゼン・ボーイズもしばらくは聴いていて、2ndアルバムなどはそれなりに好きだった。しかしあまりに独り善がりに感じられる楽曲が多く、ナンバーガール時代には斬新だった歌詞もいつしか自己模倣に陥ってしまったように思う。
今の若いロックファンにとって、向井の求心力はずいぶん薄くなってしまっている気がする。

個人的にナンバーガール解散後はもっと歌を生かした方向性でいって欲しかった。向井は優れたメロディメイカーだし、声も魅力的で歌唱力もある。歌詞の文学性の高さはいうまでもないわけで、それをもっと正統な表現に向けたほうがよりスリリングなチャレンジではなかったのだろうか。
しかし実際にはどんどん奇天烈な方向に向かっていってしまいそれはもったいないと思う。

当時ライバルと目されていたくるりが、現在もポップフィールドの土俵の上に立ち順調な活動を続け、若い人たちもリスペクトされている現状を考えるとなんとも残念な気持ちになる。