『十九歳の地図』

十九歳の地図 [DVD]

十九歳の地図 [DVD]

柳町光男監督の第二作目。柳町監督の作品を観るのは初めて。
原作の中上健次については、10年程前熱心に読んでいた時期があった。
初期〜「枯木灘」あたりまでの作品にはパワーを感じた。

小説の「19歳の地図」について、細かい部分に関してはもう忘れてしまったが、この映画は比較的原作に忠実に製作されているのではないかと思う。同じ中上健次原作でも長谷川和彦監督の『青春の殺人者』はずいぶん原作とは違う内容だった。

主役の本間優二についてはまったく知らなかった。伝説の暴走族ブラックエンペラーの3代目名誉総長らしい。柳町監督のデビュー作のドキュメンタリー『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』に出演して知り合ったことから、この映画の主役に抜擢されたようだ。
しかし本作においては、暴走族の総長だったとはとても思えないような朴訥な地方出身の青年を演じている。信じられないほどの棒演技だが、逆にリアリティーがあって悪くない。公衆電話からあたり構わず脅迫しまくるシーンはさすがに迫力があった。

蟹江敬三や沖山秀子といった濃すぎる俳優たちの魅力も光っている。特に沖山秀子は個性派俳優などという言葉ではとても収まりきらない狂気を感じた。これは狂気を演じているのではなく、まぎれもなくこういう人なのだろうと思う。沖山秀子については随分前に『神々の深き欲望』で観ていたが、本作の方がインパクトがあった。

70年代の日本映画は本当に貧乏な雰囲気が漂っている作品が多い。この作品も全編貧乏な匂いが充満している。まだこの時代は貧しさというものが身近なものだったのだろう。こういう光景は80年代の日本映画からは一掃される。